【AI導入のリアル】「ツール」から「組織の中心」へ。挑むAI Centricな開発組織の裏側
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2026年6月4日
ENSAPIA Engineering(旧:Cocone Engineering)は、「デジタルワールド」とAIを掛け合わせ、新たなサービス体験の創出に挑戦しています。
その特徴は、AIを単なる業務効率化のためのツールとして捉えるのではなく、事業戦略や開発プロセス、組織文化そのものに組み込んでいること。戦略立案から開発環境、サービス実装に至るまでをAI前提で見直し、エンジニアが定型業務から解放され、より本質的な設計や探究に集中できる環境づくりを進めています。
こうした取り組みを “AI Centric”と呼んでいます。しかし、なぜAIを“使う”だけではなく、“中心に据える”必要があったのでしょうか。
今回は、Head of AX Divisionとしてこの変革を牽引するフンジェと、開発現場でAI活用を実践する小川に、AI導入の理想だけでは語れない現場のリアルについてインタビューしました。
▍なぜAI Centricを掲げたのか
ーー “AIを使う”ではなく、“AI中心の組織(AI Centric)”にしようと思った決定的な理由は何でしたか?
フンジェ:AIというと、どうしても「便利なツール」として捉えられがちです。しかし、ツールとして活用するだけでは、組織全体の生産性向上はそこまで見込めません。歴史を振り返ると、蒸気機関や電気は、単なる新しい技術の一つとして導入されたわけではありません。社会や産業のあり方そのものを変える”中心”に据えられたからこそ、大きな革新を起こしてきました。
AIの価値を最大限に引き出すためには、業務にツールとして取り入れるだけでなく、組織の中心に捉えるほうが、生産性をより高めることができ、革新や浸透が見込めると考えたからです。戦略、プロセス、文化を全てAI前提で見直す。その考えが、私たちの掲げる「AI Centric組織」です。
ーー 他社もAI活用を進める中で、エンセイピアならではの違いはどこにあると思いますか?
フンジェ: 他社と比べるということはあまりしていないですが、失敗談の収集を結構していました。その中で、AIを導入する際に「組織文化まで変えていい」という会社としての考え方が、一番他社と違うと感じました。多くの企業では、既存のプロセスや文化を前提にAIを活用しようとします。一方で私たちは、本格的にAIを前提に働き方や意思決定の仕組みまで見直してきました。その結果、AI活用は組織全体に浸透し、業界内でも先進的な水準まで文化として定着していると感じています。

▍実際、AI導入はどのように始まったのか
ーー AI活用を本格化するにあたって、最初にやったことは何でしたか?
フンジェ:実は、エンセイピアグループとしては生成AIブーム以前からAIに投資してきた歴史があります。強化学習や機械学習、ニューラルネットワークなどの研究開発に取り組み、ソウルのAIチームが知見を共有する会も定期的に開催していました。
また、これまでも機械学習などを活用しながら、アイテムやテーマの生成など、クリエイティビティを高める取り組みを進めてきました。そのため、AIそのものへの理解や関心は比較的高かったと思います。
一方で、当時はChatGPTを一部のエンジニアが使っている程度で、組織全体で活用できている状態ではありませんでした。そこで最初に取り組んだのが、GitHub CopilotやCursorなどのツールを導入し、まずはエンジニアが日常的にAIを使う環境を整えることです。
新しい技術は、実際に触ってみるまで心理的なハードルがあります。だからこそ、まずは使ってみることを当たり前にする。そのための環境づくりと浸透活動に力を入れました。
ーー 当時、実際にはどんな業務からAIを入れていきましたか?
フンジェ: 最初は組織・個人両方で、人がやらなくても良さそうな業務からAIを活用していました。例えば分析やグラフ作成、資料の要約・整理、データ加工などです。こうした業務は専門的な判断を必要とする場面が比較的少なく、AIに任せやすい領域でした。また、仮にうまくいかなかったとしても人が確認・修正しやすく、リカバリーできる範囲だったので、まずはそうした低リスクな業務から導入するのが良いと考えました。
ーー AI導入の初期に、現場で一番混乱したことは何でしたか?
小川: 最初はGitHub Copilotの補完機能だけの時代で、「思ったほど便利ではない」「これだけでは開発は大きく変わらない」という印象でした。そのあとGPTが使えるようになりましたが、コピー&ペーストの繰り返しで効率が悪く、活用する人とそうでない人の差が生まれ始めました。
そこからClaude CodeやCursorといったコーディングエージェントが登場すると、AIを使うこと自体は一気に広がりました。しかし今度は、「使い方がわからない。」「どう使えば効果的なのか」が新たな課題になりました。GPTと同じようには使えないケースもあり、人によってAIの使用経験の差が顕著に出てしまいました。そのため、単にツールを導入するだけではなく、チームとしてどのようにAI活用の知見を共有し、全員のレベルを引き上げていくかに悩みましたね。
ーー 最初の頃、AIに期待しすぎて失敗したことはありますか?
小川: なんとなくの指示を出したら微妙な回答が返ってきたことです(笑)。当時は「AIを使えばとりあえず早くなる」と思っていて、こちらの意図を汲み取って思った通りの出力をしてくれるものだと期待しすぎていました。

でも実際には、期待した通りの結果にはならず、修正ややり直しを繰り返した結果、逆に時間がかかることもありました。そうした失敗を経験しながら、AIにも適切な使い方があり、それに慣れていく必要があると感じました。
▍AI導入のリアル
ーー AIを組織に導入して、“一番変わったこと”は何でしょう?
フンジェ: 一番変わったのは、「エンジニアが以前よりアグレッシブになった」ことです。挑戦を恐れる組織から少しずつ脱却し、一人ひとりが考える深さや視野の広さが増してきたと感じています。
以前は、何か新しいことに取り組もうとしても「知識がないから難しそうだ」と保守的になることがありました。しかし今は、AIと壁打ちしながら整理したり、理解を深めたりすることができます。人とのやり取りと違って時間や工数の制約もないので、納得するまで何度でも対話できるんです。
その結果、以前なら躊躇していたようなことでも、「まずはやってみよう」「行けそうだな」と前向きに考える人が増えてきました。
小川: 私が感じる一番の変化は、これまで自分たちで対応していた定型業務を解決するツールを、エンジニア自身が積極的に開発して活用するようになったことです。
その結果、エンジニアは単純作業に時間を使うのではなく、設計や課題解決など、よりクリエイティブな業務に集中できるようになっています。
ーー 「コードを書く仕事」自体は、どう変わったと感じていますか?
フンジェ: 以前は、いかにコードを書くかが大事だった。しかし今は問題をどう分析し、どのようなプロセスで解決にたどり着くかのほうが重要になっています。AIがコードを書いてくれる時代だからこそ、自分が考えている設計や意図をどう正確につたえるか。そして、AIが自分でミスに気づきながら、設定したゴールに向かって進めるようにワークフローを設計することが重要になってきました。
小川: 私自身は、今はまったくコードを書かなくなりました。今は複数のAIに互いに書いたコードをレビューさせて、最適なものを採用する進め方に変わっています。
また、何かを調べるときも、まずAIに設計相談をすることが増えました。以前のように検索エンジンで調べながら進める機会はかなり減っています。普段使うツールも変わりましたし、細かくコードを追いかけるためにIDEと向き合う時間も以前より少なくなりました。
▍組織と文化:「AIを使う組織」ではなく「AI前提の組織」にする難しさ
ーー AIツールを配るだけでは、AI Centricな組織にはならないと思います。何が一番難しかったですか?
フンジェ: 今もある課題ですが、AIをツールとして導入すると、どうしても「これはできない」「AIだから無理だよね」と、できないことばかりに目が向いてしまいます。
一方で、AIを前提とした組織では、「なぜAIはそれが苦手なのか」「なぜその問題は難しいのか」を考えることが重要になります。AIの限界を理解した上で、問題の分解やアプローチの工夫によって解決できないかを考えるわけです。
つまり、「AIにはできない」で思考を止めるのではなく、「どうすればAIで実現できるか」を考える文化をつくること。それがAI Centricな組織への変化であり、最も難しい部分だったと思います。

ーー AIを組織に導入する上で、一番変えなければいけなかった“文化”は何でしたか?
フンジェ: 色々ありますが、AI活用力やAI成熟度を評価制度に反映させるのが一番難しかったです。反発や不評もあり、「なぜそうせざるを得ないのか」「なぜ避けられないのか」を現場に説得し続けるのが大変でした。
小川: チーム内で変えなければいけなかった文化としては、開発環境の整備ですね。コーディングエージェントを導入するには、適切な開発環境の整備が必要です。私のチームは当時あまり整理していなかったので、テストがほぼないレガシーな環境のままAIエージェントに任せると危険でした。そのため、人間が責任を持って確認すべき部分を整理しながら、自動エラーチェックやテスト環境、CI整備などの「ガードレール」を整えていきました。AIを導入するだけではなく、安全に活用できる仕組みをチームとして作っていく文化へ変えていく必要がありました。

ーー AI Evangelistやハッカソン、評価制度など、仕組み面で意識していることは?
フンジェ: 会社として本格的にAIを導入して、まだ1年弱です。そのため、今は評価のKPIにAIを設定することに取り組んでいます。まだ運用を始めたばかりなので、評価基準と実際の業務との間にズレが出ることもありますが、組織としては今後最も大きく変わっていく部分だと考えています。
また「AI Evangelist」や「ハッカソン」の制度に関しては、AIを面白く使うためのアプローチです。AIを前提に考えることで、これまでとは違う方法で課題を解決する。「AIだったらこんなこともできる」と、新しい発想を引き出す狙いがあります。
▍AI導入にともなう壁と転機
ーー AI導入によって、新たに生まれた課題や負荷はありましたか?
フンジェ:一番大きいのは、「仕事が増える」ということです。AIによって仕事のサイクルが非常に短くなりました。これまでは返信や確認に時間がかかっていたことも、今はすぐに反応が返ってきます。その分スピードは上がりますが、判断しなければならない回数も増えるんです。
AIによって作業時間は短縮されても、意思決定の量そのものはむしろ増えている。今後はコードを書くこと以上に、何を解決するべきかを考え、適切な判断を下す力が重要になっていくと思っています。
また、組織としてもまだ発展途上です。AIを積極的に活用するメンバーは増えていますが、本当の意味でのAI Centric組織とは、AIに詳しくない人が入社しても自然とAIを活用できる状態だと考えています。個人レベルの変化を組織全体の変化につなげていくことが、これからの大きな課題ですね。
小川:実は、今まさに疲弊しています(笑)。プライベートでも面白くてAIを使っているくらいなので、自分から疲れにいっている部分もあるんですが。
AIによって出来ることが爆発的に増え、作り直しもしやすくなった。その分、AIのトークンも時間も大量に使います。レスポンスがとても速いので、判断の回数が増えて脳が疲労しているんです。以前より作業は効率化されているはずなのに、「時間が足りない」と感じることもありますね。

フンジェ:よく聞くのは、「AIを導入したら逆に残業が増えた」という話です。AIは返答が速いですし、集中もしやすい。さらに複数のAIを同時に活用すると、仕事の密度がどんどん高くなって、24時間ずっと仕事に集中してしまう状況になります。
だから私たちは、効率化と同じくらい”ゆっくり考える時間”も重視していて、”AIデトックスデイ”のような取り組みを進めています。
また、自分が長年積み上げてきた知識や経験よりもAIのほうが優れているように感じてしまい、「自分の価値が否定された」と受け止めてしまうケースもあります。実際に、そうした“AIへの敗北感”を感じている社員で苦労している話を他社で聞いたこともあります。
さらに、AI活用を組織全体へ広げていく上では、コンプライアンスやガバナンスも重要な課題です。AIは便利だからこそ、「どこまで使ってよいのか」「どのようなデータを扱ってよいのか」といったルールを明確にする必要があります。私たちは利用を制限することよりも、安全に最大限活用できる環境を整えることを重視しています。
ーー 「AI Centric」という挑戦を、今後どう進化させていきたいですか?
フンジェ: まずAI Centricな開発体制で生み出したサービスを通じてお客様に価値を届けることです。成功事例を一つひとつ積み上げ、それを他のサービスにも展開していく。そうすることで試行錯誤のサイクルを短縮し、より速く価値を届けられるようになると思っています。それが進化の姿です。
小川: 実際にサービスにもサービスへのAI活用も進んでいて、ユーザー体験の向上につながり始めています。
例えば『ポケコロ』の「Chumie(チューミー)」や、2026年3月にリリースされた『ポケコロユニバース』の「AIアイテムメーカー機能」などは、その代表的な例です。
私たち自身も予想していなかった反応をいただくことがあり、AIをどのようにサービスへ組み込むべきか、その形が少しずつ見えてきています。
▍これからに向けて
ーー AI時代に、ENSAPIA Engineeringで働く面白さはどこにあると思いますか?
フンジェ: 会社全体でAIを中心に据えた変革を進めていることですね。その中で、エンジニア自身もAIを存分に活用しながら、新しい開発のあり方を追求できます。
特にエンタメ領域で、ここまで本格的にAI活用を進めている企業はまだ多くありません。AIなしでは成立しない開発環境やシステムを作る経験ができるのは、とても面白いと思います。

ーー 今の組織にフィットするのは、どんな人でしょう?
フンジェ: まずは、問題を分解して考えられる人です。そして、AIが出した回答に対してオーナーシップをもつ姿勢が大切です。
時々、「AIがそう言ったからです」と答える人がいますが、最終的にその結果を採用したのは本人です。AIの回答を鵜呑みにするのではなく、なぜそうなったのかを理解し、自分で検証できる人がフィットします。
小川: 複数のAIを使うことを楽しいと思って開発できる人や、色んなAIを使うことにためらいが無い人が向いていると思います。
弊社では複数のAIツールを利用することができますが、今Claude Codeが一番人気です。ただ、一つのツールに依存するのではなく、さまざまなAIを試しながら、それぞれの特徴を理解して使い分けることが大切です。
新しいツールや技術への好奇心があり、AIと一緒にエンジニアリングを楽しめる人には、とても面白い環境だと思います。
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